みなさんどうも、こんにちは!
僕は元帰宅部の本気【The VO2 MAX RUN】というYOUTUBEチャンネルでランニング・マラソン情報を発信をしている市民ランナーです。
ここにある一冊のかなり古い本。この本は当時のランニング業界に大きなインパクトを与えたある意味、伝説的な本でもあります。
長距離ランナーは、乳酸をためないために心拍数130拍(/分)程度で長い距離を走るトレーニングを主体にするべきだ
この本の著者こそ、エルンスト・ファン・アーケン医師。
正真正銘のスポーツドクターであり1964年の東京オリンピックで銀メダリストを育てたランニングコーチ。母国、西ドイツではランニングドクターとして知られた走りの専門家。
そして、彼の提唱したランナーのための「ピュア・エンデュランス・メソッド」
↓ランニングドクターが提唱するピュア・エンデュランス・メソッド↓
こちらの動画でも解説したジョギングの生みの親とされるニュージーランドのアーサー・リディアード。実はもうひとりのジョギングの生みの親と言っても過言ではない人物。それこそが彼、エルンスト・ファン・アーケン。
そして、その影響は日本にも及びます。
冒頭のあの言葉。
長距離ランナーは、乳酸をためないために心拍数130拍(/分)程度で長い距離を走るトレーニングを主体にするべきだ
実はエルンスト・ファン・アーケン医師が書いた論文。この論文に出会ったひとりの日本人ランナー。
のちに彼自身も医師兼研究者となり、ランニングの研究に乗り出します。そして、当時、運動が禁忌とされていた日本の高血圧ガイドラインに運動・スロージョギングという項目を追加した張本人。
アメリカのウェスト・ヴァージニア大学医学部教授が書いた以下のランニングの本にも彼の書籍と名前が言及されるくらいワールドワイドな人物。
日本のランニング研究の第一人者であり、運動生理学者・医師である田中宏暁博士。
そう、僕の動画ではおなじみのスロージョギングの提唱者
そんな田中博士の原点が実はエルンスト・ファン・アーケン医師が提唱した「ピュア・エンデュランス・メソッド」にある。
ここから日本の予防医療業界にも影響を与えたスロージョギングの研究がスタートしたと言っても過言ではないのです。
そして、ジョギングの生みの親であるアーサー・リディアードとくらべて、エルンスト・ファン・アーケンの違いは何か?と問われれば、彼はバリバリの医師。より科学に精通しており、トレーニングの質をいかに捉えるか?ここにフォーカスしたところだと僕は考えています。
そう、エルンスト・ファン・アーケン医師の切り口こそが冒頭のこの言葉。
長距離ランナーは、乳酸をためないために心拍数130拍(/分)程度で長い距離を走るトレーニングを主体にするべきだ
ジョギングの生みの親のひとりであるエルンスト・ファン・アーケン医師が導入したのが、心拍数というものさし。
ちなみにもうひとりのレジェンド、アーサー・リディアードも心拍数についてしっかりと言及していたりもします。これはのちほど取り上げます。
ということで本日は改めてランニングやジョギングと心拍数の関係について深ぼっていきたいと思います。
と言っても、このような心拍トレーニングを扱った動画はYouTube上を探せば数多く存在するので、今回はより新しい視点を与えられるような、よりトレーニングが楽しくなるような二番煎じではない多くの方が知らないであろう「へ~」と思わず唸る内容を共有したいと思います。
もちろん、ネットにある出典不明の怪しい情報などではなく、大学教授など研究者やその分野のプロが書いた10冊以上の書籍を参考にして作りました。
全ての参考文献はコメントつきで載せてあるので、気になる方はちらっと覗いてみてください。
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また実際の心拍トレーニング方法から「脂肪燃焼ゾーンは実は迷信である!」という面白い専門家の言葉など、現代の常識にも果敢に切り込みました。
最後には本気で走っているランナーはもちろん家族・コーチ・監督などの関係者は必ず知っておいた方が良い選手生命に関わる心拍についての重要な情報も共有します。
目次
【グリコーゲン】脂肪を燃やす最大脂肪燃焼域
健康になれるのか?
どうすればより速く走れるのか?
効率の良い走りが出来るのか?
このランニング初心者とランニングガチ勢の疑問には実は共通したひとつの答えがあると僕は考えています。
それが「最大脂肪燃焼域」とよばれるもの。
この最大脂肪燃焼域の提唱者はイギリスオリンピック委員会を含む多くの世界トップチームにアドバイスをしてきた著名な運動生理学者であるバーミンガム大学のアスカー・ジューケンドラップ博士。
この最大脂肪燃焼域とは、脂肪を最大限に燃焼させてエネルギーに変えることが出来る領域のこと。
彼は自身の研究結果から、
”最高の”最大脂肪燃焼域はVO2MAXの60~63%付近、最大心拍数で言えば75%付近だ
と述べています。
ちなみにフィットネスレベルが低いランニング初心者の場合は、この最大脂肪燃焼域はVO2MAXの50%まで低下するとのこと。
最大心拍数で言えば50~60%程度。
と聞いて、「なるほど!この領域・このゾーンで運動すれば効率的に脂肪を燃焼できるのか!」と納得するのは実はまだ早い。何事もそうですが、一番重要なのはこうした数字はどんな意味を持っているのか?なぜこの数値が重要なのか?
ここなのです。
最大脂肪燃焼域が高いほど、レースの重要局面に備えてグリコーゲンを温存できることが証明されています。多くの選手がしばしばグリコーゲンが枯渇した状態で練習するのもそのためです。
この言葉は世界的な自転車ロードレースチームのスポーツサイエンティスト、ダニエル・ヒーレーの言葉。
つまり、最大脂肪燃焼域は体に蓄えている糖質、あの有名なお菓子メーカー、江崎グリコの語源となったグリコーゲン。体に蓄えられているこのグリコーゲンを効果的に温存出来る能力をアップさせる。
そのためにこの数値が意味をなすのです。
フルマラソンでよく言われる30kmの壁や35kmの壁。この足が止まってしまう壁の原因のひとつと言われるエネルギー不足。ハンガーノックと呼ばれる足が一歩も前に出ないかなりきつい状況。ここに関わってくるが、体の中に蓄えた糖質・グリコーゲンの枯渇。
アスカー・ジューケンドラップ博士の提唱する最大脂肪燃焼域での運動の本質は、実はこのような長時間、体を効率的に楽に動かせるための体に蓄えられている糖質のセーブにある。そこに付随して脂肪を良い感じで燃やせる体になるため、初心者ランナーにとっては体重のコントロールがしやすくなる。
つまり、よく言われる「脂肪燃焼=痩せる」という公式の一番の根っこにあるのが人間が持つ持久力を遺憾なく発揮するために、カラダの中にある糖質・グリコーゲンをセーブすること。
ガチのランナーの場合はVO2MAXの60~63%付近、最大心拍数で言えば75%付近。まだ走り始めたばかりの初心者ランナーの場合はVO2MAXの50%付近。最大心拍数で言えば50~60%付近でのランニングがおすすめ。
ここでひとつ注意ですが、こういう話を出すと、テストで点数を取るようなこの世には確固たる答えが存在し、その答えはひとつしかないという「〇か×か」の決めつけが発生しやすくなります。
もちろん、この最大脂肪燃焼域はひとつの考え方の話であり、万人に共通する確固たる答えではないと言う事実は補足しておきます。
重要なのは最大脂肪燃焼域という専門用語や数値ではなくその言葉や数値の奥に隠れている持久力に関わる「糖質・グリコーゲン」という視点です。
【まとめ】脂肪を燃やす最大脂肪燃焼域
ややこしくなったので軽くまとめると、アスカー・ジューケンドラップ博士が提案する最大脂肪燃焼域。このゾーンで体を動かすと、ダイエット志向のランニング初心者にとって効率的に脂肪をエネルギーに変換でき体重のコントロールに役立つだけでなく、ランニングガチ勢はフルマラソンに必須のグリコーゲンと呼ばれる筋肉や肝臓に蓄えられている糖質をセーブできる。
これによって、長時間にわたりハイパフォーマンスを維持できる。
当たり前ですが人間も動物。動く生き物と書いて動物。
ランニングを含め動くという行為の裏にはとても合理的なメカニズムが存在しており、その超がつく面白いメカニズムを知ることで、ただ機械的に走るだけでない体の素晴らしさに思いを馳せることができる。
ちなみに最大脂肪燃焼域というものが胡散臭そうと思えば彼のブログをチェックしてみてください。さすが研究者、専門性もバリバリ高いのにも関わらず読みやすくスポーツ科学・スポーツ栄養学を学びたいガチ勢にはおすすめです。彼のブログのリンクを貼っておきます。
↓【権威が教える】スポーツ科学・スポーツ栄養学を学べるおすすめブログ↓
運動科学としての心拍数
田中宏暁教授に影響を与えたエルンスト・ファン・アーケン医師。
最大脂肪燃焼域という持久力の本質に迫った考え方を提案した運動生理学者のアスカー・ジューケンドラップ博士。
この二人の共通点。
それが運動科学です。科学というのは一個人の経験や感覚ではなく、再現性のある数値として目に見える形として相対化することを言います。
タイムを測るのももちろん科学。学校のテストなどの偏差値ももちろん科学。第三者が見ても納得できる同じものさし上で比べられるからこそ、その違いにフォーカスできパフォーマンスの本質を深ぼれるというわけです。
もっと簡単に言えば科学とは物事を理解するために可視化しようとする試み。
が、運動科学のスタンダードであるVO2MAXと呼ばれる個人個人の(最大)酸素摂取量などは特別な機材がないと数値として可視化できない。
だからこそ、二人、いや田中博士を含めて科学的な思考を持っている専門家が導入したのがこれ。
こちらの日本でも売れに売れた運動科学のベストセラー。ハーバード大学大学院医学部の研究者が書いた「脳を鍛えるには運動しかない」で、著者であるジョン・レイティ博士はこう言っているくらいです。
心拍計は安くて使いやすい。効率よく運動したいと真剣に考えている人には不可欠で、そこまででなくても、ちょうどいいペースで運動できているか、激しすぎないかを知るだけでも価値はある(p313)
またこちらの第二次世界大戦中のギリシャ・クレタ島を舞台にした生まれついての英雄たち、ナチュラル・ボーン・ヒーローたちが持つ持久力の秘密に迫った書籍でもこう指摘されています。
心拍計に50ドル投資するつもりさえあれば、誰でも自分のスポーツ科学研究所になれる(p400)
では、今からそんな心拍計を使った具体的なトレーニング方法を見ていきながら、僕が関連書籍、10冊以上読んだ中で、現代の常識とされるあの常識にも果敢に切り込んでいきたいと思います。
どんな常識かというと、専門家の言葉を借りればこう。
きわめて低い心拍数で行うトレーニングは、しばしば「脂肪燃焼ゾーン」という名で呼ばれます。これも、なかなかなくならない迷信の一例です
そう、世間一般に当たり前と思われる脂肪燃焼ゾーンがまさかの迷信!?
なぜオリンピック選手を育てあげ、自身も大学院でスポーツ科学を本気で学んだ専門家がこう言っているのか。
では、早速基礎となる心拍トレーニングのやり方をおさらいしてこの謎に迫っていきましょう。
【解説】心拍トレーニングのやり方と心拍計の使い方
心拍トレーニングではゾーニングというゾーンを設定し、その狙ったゾーン内に近い心拍数の範囲でカラダを動かしていきます。
このゾーンはピラミッドのような形をしており、ゾーン1からゾーン5までの5段階が一般的。このゾーニングは数字が上がっていくほど負荷がきつくなります。つまり、一番楽なのがゾーン1で一番しんどいのがゾーン5。
たとえばゾーン1であれば最大心拍数の50~60%、実際の主観的な感覚、きつさで言えば、非常に楽である。翻って、ゾーン5であれば最大心拍数の90~100%、実際の主観的な感覚、きつさで言えば、「非常にきつい、もうだめ!」くらいのしんどさです。
ここをざっくりと簡単に紹介すると、
・ゾーン2は最大心拍数の60~70%
・ゾーン3は最大心拍数の70~80%
・ゾーン4は最大心拍数の80~90%
・ゾーン5は最大心拍数の90~100%
ちなみにここで面白い知見をぶっこむと、ジョージア工科大学のフィリップ・スパーリング博士たちの研究では皆さんご存じのあのランナーズハイ。
このランナーズハイを引き起こすとされる原因物質のひとつ、エンドカンノビノイドもしくは内因性カンナビノイド。
この聞き慣れないなんとかカンナビノイド・システムは最大心拍数の70~80%で活性化できる・活性化されるとのこと。
なんと最大心拍数の70~80%のゾーン3で50分間走るとランナーズハイになれる可能性があるということが実は研究で示唆されていたりします。
気になる方は是非ともやってみてください。
>>ジョージア工科大学のフィリップ・スパーリング博士たちのランナーズハイに関する知見はp231を参照
僕が勝手にダブル田中と読んでいるもうひとりの世界的に活躍している運動生理学者、テキサス大学の田中弘文博士がおすすめする最大心拍数の求め方も含め、この辺りのゾーン別のまとめはいつでもサクッと見られるように簡単に記載しておきますので、以下でチェックしてみてください。
★心拍ゾーン別の効果★
ゾーン2(最大心拍数の60~70%)は基本的な持続力の向上と脂肪燃焼効果
ゾーン3(最大心拍数の70~80%)は有酸素運動能力向上
ゾーン4(最大心拍数の80~90%)は運動能力向上
ゾーン5(最大心拍数の90~100%)は瞬発力の向上
心拍トレーニングのゾーニングについては以下の書籍を参照
>>いまから始める心拍トレーニングBOOK
↓テキサス大学(オースティン校)で研究している心臓のエキスパートである運動生理学者、田中弘文博士がおすすめする最大心拍数の求め方↓
最大心拍数=「208ー0.7×年齢」>>良いトレーニング、無駄なトレーニング科学が教える新常識(上記の公式はp128を参照)
以上が簡単なゾーニングと呼ばれるゾーン分類です。
心拍トレーニングはこのような心拍数の数値から具体的なゾーンを割り出し、そのゾーンで運動を行うことで自分の目指している目的や目標に効率的にアプローチするトレーニング手法。
そんな心拍トレーニングでひとつ確実に言えるのは、以下の二点。
①長期的な視点に立つ
②トレーニングの原理原則に則って一歩ずつ確実に進んでいく
この二点です。心拍トレーニングにショートカットや裏技などは存在しません。
そして、おそらく一番大切なもの。それが長期的な視点。
なぜなら、心拍トレーニングには実際に走っているときの心拍数、自分を限界まで追い込んだときの心拍数である最大心拍数以外にも、もうひとつの重要なものさしが存在するからです。
それが「安静時心拍数」です。
安静時心拍数とは朝起きたときに起き上がる前のベッドに横になっているときの数値です。
僕がさまざまな本を読んできてこの安静時心拍数こそが一番重要なのではないか?と思っているくらいの数値。
それが安静時心拍数。
なぜ一番重要かというと、この2点からです。
①トレーニングの評価軸として使える
②トレーニング強度・コンディションの目安となる
まず一点目のトレーニングの評価軸として使えるというのは、当たり前ですがトレーニングを計画的にこなしていくと体力がついてきます。その体力がついてきたというのが安静時心拍数にダイレクトに反映されるのです。
具体的に言えば、安静時心拍数が低下していく。
心臓はいわば筋肉のかたまりです。
筋トレと一緒でムキムキになる。これがいわゆるスポーツ心臓とよばれる現象です。
ムキムキになった心臓は力が強くなるため血液を送り出すポンプ力がアップ。すると少ない回数で血液を全身に行き届かせることができる。よって、持久系トレーニングを続けると徐々に心臓がムキムキになり安静時心拍数が低下していく。
これが体力がついてきたことのひとつの指標となる。
そしてこの現象は一朝一夕では起こらない。よって長期的に安静時心拍数を観察し続けることが大切となる。もちろんトレーニングを並行しつつ。
そう、体力・持久力の評価、トレーニングの成果は実はこんな形でも評価が可能だったりします。と言っても、これはランニング初心者や中級者の場合で、上級者のガチ勢になればこの評価軸はあまり機能しなくなるので、そこだけは言及しておきます。
二点目。
それがトレーニング強度・コンディションの目安となる。
みなさんもご存じのこのお方。スポーツ庁長官で、スポーツ科学者でもある元ハンマー投げ日本代表、室伏広治博士。
彼は疲労を扱った自身の著書でこう語っています。
特に疲労症状が高まるにつれて起床時の心拍数が増加するといわれており、オーバートレーニング症候群を早期発見する目安となります。原因は肉体的・精神的ストレスにより、視床下部や脳下垂体から分泌されるホルモンが崩れるためと考えられ、重症になると競技復帰が不可能になる場合があるので早期に発見し対処することが必要です
そうなのです。安静時心拍数は疲労のたまり具合を知れるひとつの目印になる。今日一日のコンディションの目安になり、トレーニングメニュー・トレーニング強度の目安になるのです。
疲労が溜まった状態で、きついトレーニングをこなし続けるとどうなるか?
ケガのリスクが増えたり、メンタルにきて燃え尽き症候群などになってしまう可能性がある。このように自分のカラダの声に耳を澄ませるひとつの道具として心拍計や心拍数は機能するのです。
またこのようなカラダが不調をしめしているときにこそ、トレーニング負荷を減らすため、軽めの練習をするためにこそ心拍計を使うのです。
実際にプロランナーのライアン・ホール選手はこう言っています
僕みたいに頑張り過ぎる選手にとって、これは無理をしないための良い方法だと思う(GOOD TO GO 最新科学が解き明かす、リカバリーの真実、p214)
また、ランニング界の名伯楽として知られるアーサー・リディアードはこんな面白い指摘もしています。
彼が取り入れている速く走る区間とゆっくりとジョギングする区間を繰り返すインターバルトレーニングの中止基準。
それがこんなもの。
速く走った距離と同じ距離をジョグして、あるいは速く走った距離が800m以上の場合、大体5分ほどのジョグをした後、心拍数がまだ120~130回(/分)に落ちてこない(p155)
繋ぎ部分のジョギングで心拍数が120~130回を下回らない場合はトレーニングを中止する。このように、心拍数や心拍計はだたトレーニング強度だけでなくトレーニングの辞め時も教えてくれる。
このような使い方もできます。
あともうひとつ、誰も指摘していない面白い心拍数・心拍計の使い方としては、暑熱馴化と呼ばれる暑さに耐性をつけるときの基準にもなります。
持久系アスリートの耐久力を深ぼったスポーツ科学の名著ではこう指摘されています。
高温下でくり返し運動をすると体の防御反応は次第に高まっていく。汗をかき始める温度が下がり、発汗量が増える。熱を含んだ血液を皮膚に送るため、血管がさらに拡張する。体内の血流量が増え、運動中の心拍をより低く保てるようになる(p197)
こうした暑熱順化のプロセスには2週間ほどかかるため、全米アスレチックトレーナー協会は熱がこもりやすい装備を身につけてトレーニングするスポーツは最初の2週間はカラダが暑さに順応してから装備をつけるように提言していたりします。
このように暑さに慣れてきたのかどうかも実は心拍データから読み取ることもできるかもしれないのです。
安静時心拍数からかなり脱線しましたが、以下の2点。
安静時心拍数は体力がついたのかを評価するひとつの方法になる、もうひとつは今日一日のコンディション、トレーニング計画を考える上で重要な役割を果たす。
また、リカバリーやトレーニング中止の基準としても使えたりする。
安静時心拍数と疲労度合に関しては「心拍変動」HRV=hear rate variationというマニアックなものも存在しているのですが、気になる方は以下でかなり詳しく解説しています。
以上から簡単な心拍トレーニングのやり方と応用方法のだいたいのイメージがついたかと思います。
↓【レビューあり】僕が愛用しているおすすめ心拍計内蔵型ランニング腕時計↓
エビデンスベースのランニング腕時計の使い方やデータについての捉え方・本質を深ぼりました!動画後半に実際に使用した感想あり!
やせる脂肪燃焼ゾーンという迷信!?
では、やっとで申し訳ありませんが脂肪燃焼ゾーンという常識についての面白い知見を共有したいと思います。
シニアアスリートのパフォーマンスを取り扱ったこちらのスポーツ科学の名著にはこう書かれています。
我々は、体脂肪をコントロールするには、ゆっくり長く距離を踏むLSDこそ王道であると、刷り込まれてきました。きわめて低い心拍数で行うトレーニングは、しばしば「脂肪燃焼ゾーン」という名で呼ばれます。これも、なかなかなくならない迷信の一例です」(すべての持久競技のアスリートに50を過ぎても速く!FAST AFTER 50、p224)
この話を支持する研究として、カナダのラヴァル大学で行われた実験があげられています。
この実験をかなりザックリ言うと脂肪燃焼ゾーンである低強度とその真逆の高強度運動が消費カロリーや体脂肪にどう影響するのかを比較した研究です。
この研究でわかったことが面白く、低強度のグループのエネルギー消費量は、合計で28,757kcal。
いっぽう高強度のグループは13,829kcal。
が、ここがカラダの面白いところで、実は皮下脂肪をつまんで計測するキャリパー法と呼ばれる計測手法では高強度のグループの方に軍配が上がったのです。つまり低強度の運動より高強度の運動の方が皮下脂肪の量自体が減っていた。
しかもこの本によれば、「大幅に数値を減らしていた」と書かれているので、脂肪燃焼ゾーン、つまり脂肪を燃焼させる、脂肪をなくすには実は強度の高い運動のほうが実は効果的なのではないのかと示唆されているのです。
よって、この本ではこう結論付けられています。
結論として言えるのは、俗説で「脂肪燃焼ゾーン」といわれる強度で行うLSDに比べ、高強度のトレーニングのほうがはるかにぜい肉を落としやすい、ということです(p224)
また、こうも指摘されているのです。
誤った考えを信じてLSDだけで体脂肪を落とそうとしないようにしましょう(p224)
正直、この主張は結構強引な感じは否定出来ませんが、このような知見も存在するという事実は知っていて損はないと思います。
まあ、当たり前ですが、脂肪燃焼は軽い運動、脂肪燃焼ゾーンだけの運動強度にこだわるよりさまざまな強度で行うのが良さげという本当にごく当たり前の結論のように僕は思います。
この脂肪燃焼というトピックはこれまた超がつくほど面白く、エネルギー代謝のエキスパートであるデューク大学のハーマン・ポンツァー博士が書いたこちらの本。「運動しても痩せないのはなぜか 代謝の最新科学が示すそれでも運動すべき理由」がおすすめです。
では、「もっとわかりやすく明確な数値が欲しい」という方におすすめな運動強度をご紹介します。
それこそがにこにこペースです。
このにこにこペースとは冒頭でもご紹介したスロージョギングを提唱した田中教授がおすすめしているものであり、最大心拍数と安静時心拍数の中間にあたる50%心拍数が、だいたいニコニコペースの心拍数です。
例えば30歳の人なら138-30/2で123、40歳なら118、50歳なら113、60歳なら108が目標心拍数になります。
この目標心拍数を少しでも超えるようにしてくださいとのこと。
理想的には週に180分以上、1回の量としては30分から1時間くらいを目安に走ることを田中教授はおすすめしたりしています。まずはこのレベルから始めると楽しくランニングを継続できるかもしれませんし、ガチ勢であっても軽い練習はこのレベルで行うと走力アップに繋がるかもしれません。
【選手生命が終わる】持久系アスリートが持っている心房細動のリスク
では、心拍数と聞いて僕が一番先に思い浮かんだのが、この海外のプロアスリートのランニング動画。
彼の生データが全て可視化されているこの100万回(117万回以上)再生を超えている大ヒット動画。
本気で走っているランナーは、まずは何も言わずに概要欄にあるこの動画のURLをクリックしてみてください!モチベーションが爆上がりするはずです。
10kmを28分04秒で走っているから。
しかも彼は陸上選手ではなくトライアスロン選手。実際に先日行われたパリオリンピックにも出場した現役のアスリートでもあります。
117万回以上も再生されている有益なランニング動画を是非、ご自身の目で見て、世界で活躍するプロの視点を体感してみてください。
きついトレーニングをするときのモチベーションを爆上げさせてくれるおすすめ動画です。
と言っても、この動画で僕が伝えたいもうひとつこそがその心拍数なのです。
心拍数が異常に高い
ここなのです。
実は彼はこの後、手術を受けます。
しかも心臓の。
この手術によって一時はオリンピックに出られるかもわからない状態、引退を考えるレベルまでコンディションが落ちました。
僕が今回お伝えしたいのは、まさにこの部分。
心臓を酷使し続ける持久系アスリートが陥る心臓の不具合。
それが「心房細動」と呼ばれる病態です。
心房細動とは簡単に言うと、心臓のドキドキが異常に早くなる症状。と聞いて、脈が速くなるだけでなく、イメージとしてはぴくぴくと心臓が動くような感じ。つまり、何が問題かというとしっかりと血液をカラダの隅々まで押し出せない。心臓の筋肉がグッと収縮できずにぴくぴくと痙攣しているのが心房細動の大まかなイメージ。
そうなれば、どうなるのか?
動悸、息切れ、倦怠感、めまいなどが起こる。
実は持久系競技を長年ガッツリと行ってきた人はこの心房細動のリスクが上がるのです。そして、このYouTubeでエグイ走りを見せるオリンピックアスリートもそのために引退寸前まで追い込まれた。
基本的に心房細動は命のリスクがほぼないと言われています。それ単体では。
それが競技中または練習中に起こった場合の悲劇です。
心房細動が起こると、フラッとなる。つまり転倒するリスクがあがるのです。特に速いスピードでトレーニングしていた場合、フラッとなってもし車道に飛び出すと、あるいは足をひっかけて頭から転倒すると……最悪、命に関わる危険性もある。
と聞くと、鼻で笑う方もいると思います。
が、しかし、その万が一を想定できるかどうがリスク管理というものなのです。知識不足や認識の甘さから来る不測の事態はこのような形で命を奪ったり、選手生命を奪うこともある。
実際に自転車ロードレースではこの心房細動のために落車して九死に一生を得た選手もいるくらい、甘く見てはダメな病態であると僕は思っています。
また、実はこの心臓発作に関して、ガッツリとしたトレーニングをよく行うアスリートに見られる心臓を取り巻く動脈、冠動脈の石灰化が指摘されることがあります。冠動脈とは心臓に酸素と栄養を送っている重要な動脈。ここがガチガチに硬くなり上手く心臓をサポートできなくなり機能不全に陥る。
この高密度の冠動脈石灰化と呼ばれる現象が影響して心臓発作などの心臓の機能低下に繋がるのではないか?という話もありますが、最近の知見では、アスリートによく見られるこのような高密度の冠動脈石灰化はハードな運動による強いストレスから動脈の壁を修復するための”バンドエイド”のようなものとの見方が有力とのこと。
Coronary Artery Calcification Among Endurance Athletes: “Hearts of Stone”
↓元論文↓
ハードな運動による強いストレスから動脈壁を修復するための”バンドエイド”のようなものはこちらの持久系アスリートと冠動脈石灰化を深ぼった記事から。
よって、心房細動の原因として指摘される冠動脈石灰化は運動をよく行う人々の場合は心臓発作など心臓病のリスク要因ではない可能性が高いということを示唆する研究もあるくらいです。これらはめちゃめちゃマニアックな話ですが、気になる関係者は文献をご覧ください。
Association of All-Cause and Cardiovascular Mortality With High Levels of Physical Activity and Concurrent Coronary Artery Calcification
↓元論文↓
21758人の中高年男性を対象とした大規模な分析でわかったのは、体を良く動かす人はCACスコア(冠動脈カルシウムスコア)は高かったが、心臓病のリスクは最も低かったこと。たとえ冠動脈石灰化レベルが高かったとしても死亡リスク要因ではない可能性が高そう。もちろんこの現象は活動量の多い男性について。肥満などの運動不足からくる冠動脈石灰化(動脈硬化)は死亡リスク↑↑
このようにハードに心臓を酷使しているアスリートは心房細動と呼ばれる心臓の機能不全のリスクがあります。これはどうしようもなく正直、仕方がないこと。
もし少しでも胸に違和感をおぼえた場合、健康体であっても病院で検査してもらうことをおすすめします。そして、リスク管理として心拍数と向き合ってみてください。
★117万回再生!トレーニング前に見るおすすめランニング動画★
すさまじい!モチベーションが上がるおすすめ動画。彼が右腕にしているのが実は心拍計。試着したことがあるのですが、胸ベルトタイプ、腕時計内蔵タイプのデメリットうまくカバーしている印象の高精度な心拍計で、忖度抜きにおすすめ!
これが僕が心拍トレーニングをおすすめするもうひとつの理由でもあります。
このような使い方や考え方を頭の片隅においておけば、不測の事態にも冷静に対処できるかもしれません。
最後に、どんなに熱意ややる気があってもこのような心臓のトラブルで夢や努力を諦めざるを得ないアスリートもいるという事実を知っておくことが一番大切なのかなと僕は思います。
【マラソンの謎】東大教授が投げかけた面白いランニングの疑問に答えてみました
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