【永久保存版】なぜスロージョギングで気分の落ち込み・うつ症状が治るのか?【ランニングでうつ病を治すスポーツ科学】

書籍紹介

みなさんどうも、こんにちは!

僕は元帰宅部の本気【The VO2 MAX RUN】というYOUTUBEチャンネルでランニング・マラソン情報を発信をしている市民ランナーです。

2024年4月にスカンジナビア・ジャーナル・オブ・メディシン・アンド・サイエンス・イン・スポーツと呼ばれるスポーツ医学を取り扱う学術誌にインターバルトレーニングについての面白い研究が発表されました。

この研究が示唆していることが、ズバリ、こうです。

結論として、HIITと呼ばれる高強度インターバルトレーニングは健康な人々のうつ病や不安症を改善しない

という結構、驚きな内容。

もう一度、繰り返します。

HIITと呼ばれる高強度インターバルトレーニングは健康な人々のうつ病や不安症を改善しない

なぜこの研究の結論が驚きに値するのか?

実はこちらのハーバード大学医学部の研究者が書いた名著、「脳を鍛えるには運動しかない!」でこのように指摘されているからです。

最低でも毎日15分間の激しい有酸素運動――ランニング、水泳、エアロバイク、エアロボート、なんであれ心拍数を上げる運動――から始める必要があった。激しい、ということがとくに重要だ。実験により、激しい運動だけが、不安による肉体的な興奮に対する感受性を和らげることがわかっているからだ。(脳を鍛えるには運動しかない! 最新科学でわかった脳細胞の増やし方、p141から引用

また、運動と抗うつ剤を長期間に渡って比較した1999年のデューク大学における革新的な研究。それが通称スマイル(SMILE)と呼ばれる研究です。

↓詳しい研究の内容はこちらの動画をご覧ください↓

この運動と抗うつ剤との長期間にわたる比較実験、通称スマイルで設定された運動強度が有酸素運動能の70%から85%の強度なのです。

そして、この研究を行ったジェームズ・ブルメンタール博士の結論がこう。

運動には薬と同じくらいの効果がある

これらの研究などからメンタルヘルスに問題を抱えている患者を含め、予防という意味合いでも「不安」や気分の落ち込みなどの「抑うつ症状」には息を切らす有酸素運動、高強度トレーニングが薬並みに有効かもしれないと考えられ、そのトピックを扱ったのが何を隠そう先程の動画・ブログなのです。

【うつ病も治る!?】有酸素運動と高心拍トレーニングはなぜおすすめなのか?
みなさんどうも、こんにちは! 僕は元帰宅部の本気【The VO2 MAX RUN】というYOUTUBEチャンネルでランニング・マラソン情報を発信をしている市民ランナーです。 効率的なトレー...

>>脳を鍛えるには運動しかない! 最新科学でわかった脳細胞の増やし方

が、そこに現れたのが最初にご紹介したこちらの最新研究。

そうなのです。

この運動とメンタルヘルスに関するひとつの定説に

それって本当なのか?

という疑義が突きつけられたのです。

ということで、本日は恐らく現役医師でも知っている人が少ないであろう面白い研究を切り口に今一度、

なぜランニングがうつ病などのメンタルヘルスに効くのか?
なぜうつ病や不安症にランニングがおすすめされているのか?

その理由を、よく言われるありきたりで表層的な内容ではなくよりディープで興味深い知見から改めて見ていきたいと思います。

我々が生きている現代はまさしくストレス社会。

不安症・うつ病などの心の病気はいきなり何の前触れもなくやってくることもあるので、

私は絶対に大丈夫!うつは甘えだ!

と思っている人こそ、是非、最後までご覧ください。

もしかすると今後、この知識があるおかげで人生、生きやすくなるかもしれません。

また、動画の後半にはとっておきの面白い知見も散りばめております。こちらもお楽しみください。

動画の尺が長いと感じれば、適宜、概要欄の目次から面白そうなチャプターに飛ぶのももちろんありです。

また、紹介した研究はできるだけ一次資料もしくは出典元を記載しておきます。気になれば各自深ぼってみてください。

ということで、まずは冒頭の最新研究から面白い知見をゲットしましょう。

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高強度インターバルトレーニングは健康な人々のうつ病や不安症を改善しない

では、早速先程の最新研究。

健康的な人々における抑うつや不安症の高強度インターバルトレーニングの効果:システィックレビューとランダム化臨床試験のメタ分析

の内容をサクッと見ていきましょう。

この研究の結果はそれこそ従来の当たり前を覆す面白いもの。

心拍数を上げる高強度の運動をしても、うつ病や不安症などのメンタルヘルスの改善には効果が見られない。健康な人にとっては。

そう、ここでのキーワードは「in healthy individuals」健康な人々」というもの。

実際にうつ病や不安症を持っている方を対象としたわけではないため、あくまでうつ病や不安症の予防的観点から、どれくらい高強度の運動がメンタルヘルスに影響しうるかを調査したものです。

よって、実際にうつ病や不安症で苦しんでいる方に高強度のトレーニングがメンタルヘルスの改善に効果的ではないと言っている訳ではないので、そこだけはご留意ください。

ちなみにここはあとでしっかりと面白い話を用意しています。ご期待ください!

というように、アブストラクト・要旨の最初でも指摘されているように、HIITと呼ばれる高強度トレーニングとうつや不安症のエビデンスは増えていますが、本当に効果があるのか?というような統一見解はまだない。

そこに切り込んだのがこの研究であり、統計手法を使った比較的信頼性の高い答えとしては

う~ん、微妙。HIITをしてもうつや不安には効果がないかも。健康な人々にとって

というもの。

ちなみに研究の参加者は471人で81%が女性なので、性差の偏りが発生していることは言及しておきます。

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ちなみになぜこの研究をあえて取り上げられたのかというと、使用された研究手法がタイトルの後半にはある「システマティックレビューとメタ分析」と呼ばれる科学界で信頼性がトップレベルで高い手法を用いているからです。

この事実が何を意味しているのかと言えば、「脳を鍛えるには運動しかない!」やその他の高強度の運動を推している書籍の根拠こそ、それこそ、医者・研究者のいち意見であったり、単群研究、シングルスタディと呼ばれる信頼性が比較的低いエビデンスに寄っているから

【ランニングで勉強ができる】効率の良い勉強法と運動脳の作り方
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つまり、本当に信頼に足るのか?

と言われれば「う~ん」となる可能性があるものを根拠に効果的であると語っている可能性を否定できないのです。

なので、このようなある意味、真の意味での科学的教養を身につけていないと昨今声高に叫ばれる「科学的」と言う言葉や「科学的根拠(エビデンス)に基づく」という言葉に踊らされる可能性があるのです。

と言うわけで「またその話か」と思った方には申し訳ないのですが、僕は様々なブログ・動画でこの事実をあえて触れるようにしています。

こういうのが本当の知識だと僕は考えているからです。

>>世界屈指の大学UCLAのやり手研究者が指摘する「エビデンスレベルの真実」

>>【そもそも論】なぜ科学的根拠「エビデンス」が大切なのか?

↓【その研究って信頼できる!?】エビデンスレベルの真実↓

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よって、これらのシングルスタディやより信頼性の高いRCT(ランダム化比較試験)と呼ばれる実験結果を集め統計処理をかけて、数値ベースでより信頼できるかたちで発表されたのが今回の研究。

と言っても、この研究でも指摘されていますが、今回統計処理をかけた研究の質自体がそこまで高くないため、このメタ分析も確固たるエビデンスを提供できている訳ではなさそうです。

なので、この研究結果だけを切り取り

高強度トレーニングはメンタルヘルス改善には意味がない

と決めつけるのは、

それこそ、研究に踊らされているだけなので、気を付けてください。

この世は学校のテストのような○×で語れる明快な答えなんて用意されていないと僕は考えています。

と聞いて、もやもやする方もいると思いますが、そういうものを含めてエビデンス、研究なのです。

よって、

こういう研究もあるのか面白い!

くらいがベストな捉え方なのかなと僕は思います。

そう、なぜこの研究を今回取り上げたのかというと、健康な人々にとってうつや不安には激しいトレーニングが効果的である!という従来の定説に疑問を呈したという意味で、かなり面白い研究だと僕は思ったからです。

ちなみに、現在、不安症もしくはPTSDと呼ばれるかなりきついトラウマで苦しんでいる方には全力ダッシュなどの高強度エクササイズはおすすめです。

特に屋外で行うには

というのも、移動を伴う高強度の運動は時間の感じ方を歪め、文字通り過去を置き去りにできる可能性があるからです。よって、室内で高強度の運動をするより、自分の体の移動を伴った形で心拍数を上げると、その不安が軽減したり、漫然とした恐怖に立ち向かう勇気が湧いてくるかもしれません。

詳しくは以下でこの面白い現象に関するめちゃくちゃ興味深く個人的に大好きな研究をご紹介しておきます。

↓不安症やPTSDで苦しんでいる方に移動を伴う高強度エクササイズがおすすめな根拠↓

It’s all in the past: Deconstructing the temporal Doppler effect
『すべて過去に:時間的ドップラー効果の脱構築』

↓元論文↓

It’s all in the past: Deconstructing the temporal Doppler effect
A recent study reported an asymmetry between subjective estimates of future and past distances with passive estimation and virtual movement. The tempo…
※コメント※
【空間移動が時間の感じ方を変える】心理的ドップラー効果の論文。動きによって時間の感じ方が変化するという「メンタル的なドップラー効果」を実験によって再現した研究。
詳しくは以下の動画後半のチャプター『【走り方を変えれば発想が変わる】過去を置き去りにするランニング』をチェック!

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【結論】うつ病にはスロージョギングが良い!

では、ここから本題です。

このメタ分析の研究トピックは健康な人々にとってのHIITと呼ばれる高強度トレーニングとメンタルヘルスの関連性についてでした。

では、健康な人々ではなく実際に病気を持っている患者についてはどうなのか?

結論を先に述べます。

うつ病には運動(スロージョギング)が良い

そして、それは低強度でもOK!

実はスマイルと呼ばれる長期間にわたる抗うつ剤と運動の効果を比較した画期的な実験でジェームズ・ブルメンタール博士のチームが導きだしたひとつの結論がこんなもの。

その人の症状がよくなるかどうかに最もはっきり影響するのは、運動の量だと断定している。

そう、質ではなく量が大切

よって、メンタルヘルス、特にうつ病などの大きな気分の落ち込みにはしんどい短時間な運動というよりは、いかに体を動かし続けるのか?その量に関係しているようです。

この示唆に富む結論は人間という生物種が持久力に特化して進化してきたと考えれば、「なるほど」と個人的には納得するのですが、おそらくうつ病予防の観点からも結構重要になりそうな知見だと個人的には感じています。

↓人間は持久力に特化して進化してきたと示唆する論文↓

Endurance running and the evolution of Homo
『持久走と人類の進化』

↓元論文↓

Endurance running and the evolution of Homo - Nature
Striding bipedalism is a key derived behaviour of hominids that possibly originated soon after the divergence of the chimpanzee and human lineages. Although bip...
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が実はなんと量もそこまで必要ないのかもしれません。

というのも2022年に発表されたこちらのメタ分析でも、軽い運動であってもうつ病のリスクを大幅に減らせる可能性が示唆されたりもしているからです。

ちなみに中くらいのきつさの運動を一週間に2.5時間行ったレベルの活動で、何も運動をしていない場合と比べて、うつ病の潜在的なリスクが25%も減るとのこと。

これは一週間のうちに2時間半早歩きするレベルの活動量です。

そう、うつ病予防として一週間、168時間のうちたった2時間半、しかも早歩きレベルの運動強度でOK!という意外と少ない労力で予防に繋げられるかもしれません。

★【うつ病予防】2022年に発表された運動によってうつ病のリスクが減ることを示唆するメタ分析★

Association Between Physical Activity and Risk of Depression: A Systematic Review and Meta-analysis
『身体活動とうつ病のリスクとの関連性:システマティックレビューとメタ分析』

↓元論文↓

Just a moment...
※コメント※
少しの運動でもうつ病のリスク軽減には効果的でおすすめ!希望を与える医療業界では有名な質の高い研究(対象人数191130人/15研究)。この研究結果「Results」で指摘されている「8.8mMET時間/週の運動量で成人のうつ発症リスクが25%低下する」の8.8 mMETというのが「中くらいのきつさの運動を一週間に2.5時間行ったレベルの活動」と同じ意味。この研究ではやりすぎてもあまり効果がないみたいなことも指摘されていますが、運動は薬と違い「副作用」がほとんどないため、量で攻めるのはありだと個人的には思います(軽~中強度の運動がおすすめ!)。
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ということで、何もきつくつらい運動なんて必要なく、出来れば量にフォーカスを当てたほうがうつ病の予防には効果的であり、別の研究によれば仮にうつ病を持っている方であれば週に最低1回30分ほどの軽い運動であっても、それをしていない患者に比べ、ある事象の起こりやすさである「オッズ比」と呼ばれる数値に換算して、2.3も症状が改善していたとのこと。

個人的にはこれはなかなかすごいと思ってしまう数値です。

↓【うつ病治療】運動の用法容量に関する根拠↓

※コメント※
「最低1回30分の軽い運動でオッズ比2.3↑」という知見はp191を参照。ちなみに「一度で30分でなくとももちろん良い」と動画のさいごでは発言しましたが、これは運動のハードルを下げるためのあえての拡大解釈です!(人を騙したり、不利益を被らせる拡大解釈は絶対にダメですが、人をモチベートするための、あえての拡大解釈は必要だと僕は思っています)。
実際の元論文は見つけられず……この根拠となる実験を行った研究者(Lawlor DA博士)の研究をザックリと見ると運動とそのほかの療法とではそこまで劇的な差が見られない(中程度)ようなので、「うつ病には運動が劇的に効く!超おすすめ!」というのも、もしかするとひとつの「運動神話」なのかもしれないと個人的には思いました。
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Exercise for depression

『うつ病のための運動』

↓元論文↓

Exercise for depression - Cooney, GM - 2013 | Cochrane Library
※コメント※
医療業界に伝わる伝家の宝刀コクランレビュー。僕がこの論文を読んで思ったことは「運動だけを盲信して心理・薬物療法を完全否定するのはヤバイ」←世間に迎合する医者を含め、こういう過激派は結構いる笑

以上の研究からわかるのは、ほんの少しの軽い運動でもメンタルには効果的であるという事実です。

なぜあえてこんな研究や数値を出して話をしているのかというと、うつ病の方にとっての運動を継続するハードルが死ぬほど高いからです。

なぜならうつ病自体がやる気をうまく出せない病気。

だからこそ、こなすべきハードルは全然高くない。そもそも運動のハードル自体がかなり低いという事実を知っていれば、今日やる気が出なくても明日またやれば良いと思える。

そう、今日できなくても全然OKで、出来なかった自分を責める必要は一切ないということ。それだけを一番納得感のある伝え方としてこのような形で紹介しました。

とまあ、ここまではありきたりで何も目新しくない情報だと思います。

ではでは、ここからがかなり面白いトピックです。

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【スロージョギング・ランニングでうつ症状が改善する仕組み】骨格筋のPGC-1α1はキヌレニンの代謝を変え、ストレス性うつ病のレジリエンス、回復力を取り持つ

ここにある一本の論文。

それが世界でもトップレベルの医学研究所、スウェーデンにあるカロリンスカ研究所のジョルジェ・ルアス博士たちが発表した超がつく面白い研究です。

そもそもなぜ運動するとうつ症状が改善されるのか?

そう問われると、多くの医師や専門家が

セロトニンが~、脳内物質が~

などがお決まりの定型文を繰り返します。

その定型文により深くメスを入れたのがルアス博士たちの研究です。

この研究で指摘された面白い事実がこんなもの。

キヌレニンはうつ症状を引き起こす原因物質のひとつ

いきなり登場したのがこの研究の目玉である「キヌレニン」という物質です。

そしてもうひとつの目玉が、持久系トレーニングを研究している方なら、言わずと知れたこの物質。

ランニング研究の第一人者、田中宏暁教授も指摘したPGC-1α

オーケストラの指揮者、マスターキーのような役割を果たすのがこのPGC-1α。

よって

PGC-1αでトレーニングが語れる

それくらい重要な物質がこのよくわからない横文字の物質の特徴。このよくわからない物質であるPGC-1αについては以下の動画で解説しているので、気になる方はチェックしてみてください。

【3選】医師も知らない!?ランニングがおすすめな理由【有酸素運動と健康の科学】
みなさんどうも、こんにちは! 僕は元帰宅部の本気【The VO2 MAX RUN】というYOUTUBEチャンネルでランニング・マラソン情報を発信をしている市民ランナーです。 ...

※コメント※
動画の後半にPGC-1αを説明しています。概要欄の目次から『【PGC-1αとは?】転写活性化補助因子』まで飛んでください!

そして、この研究論文のタイトルがこんなもの。

骨格筋のPGC-1α1はキヌレニンの代謝を変え、ストレス性うつ病のレジリエンス、回復力を取り持つ

つまり、PGC-1αがキヌレニンに作用して、なんやかんやあって結果、ストレス性のうつ病の回復に役立つというそのなんやかんやを説明しているのがこの研究なのです。

ちなみにこのなんやかんやはなかなか難しいので、東大の先生の言葉を借りつつザックリわかりやすく説明します。身構える必要もなく軽く聞き流してくれてOKです。

では行きましょう。

まずうつ病患者では血液の中にあるキヌレニンという物質の量・濃度が上昇しています。そして、この聞き慣れないキヌレニンという物質の濃度が高ければ高いほど、症状が重い。

ということで、博士たちはキヌレニンをネズミに注射してみました。すると、抑うつ症状が出て、普段だったら大好きな砂糖水でさえも飲まなくなってしまった。

これで、キヌレニンはうつ症状を引き起こす原因物質だったということがわかりました。

ではなぜキヌレニンがうつ病を引き起こすのかというと、キヌレニンは脳に入ると、(3―)ヒドロキシキヌレニンに変化します。これは炎症を引き起こす物質で、神経細胞や神経伝達にダメージを与え、さらにアミノ酸であるトリプトファンを枯渇させます。

このトリプトファンこそ、みなさんも耳にしたことがある幸せホルモン「セロトニン」

トリプトファンはこの「セロトニン」の材料そのもの。

>>トリプトファン

というわけで、セロトニン自体を作る材料がなくなることで、必然的にセロトニンの量が減少。この脳内の炎症+セロトニンの減少によって人間を含めマウスもうつ状態に陥ると考えられています。

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ということでこの根っこにありそうな、キヌレニンという物質。

博士たちの研究のハイライトのひとつが、ネズミに運動をさせるとキヌレニンを投与してもうつ症状が生じないことを確認したことです。

実際、キヌレニン投与後の血中濃度を測定すると、運動したネズミではキヌレニンの濃度が上昇しないことがわかっています。

つまり、キヌレニンの血中濃度が高ければ高いほど、うつの症状が重い。キヌレニンの量、濃度をコントロールできればうつ症状を改善できるかもしれなく、なんとキヌレニンを注射して強制的に量を増やしたとしても、運動をするとこの濃度がなぜか上がらない。

そう、うつ症状のきっかけにならない。それは一体、なぜか?

ここを解明したのが博士たちの研究の一番のハイライトだと僕は考えており、その理由こそが、タイトルにもあったあの物質、PGC-1α。

運動をするとこの筋肉にあるPGC-1α1、転写活性補助因子の働きが高まることで、このうつの原因と目されるキヌレニンを分解する酵素、キヌレニンアミノトランスフェラーゼが筋肉内で増えることで、キヌレニンが分解され、血中のキヌレニンの濃度が上がらなかった。

そう、PGC-1α1とよばれるマスターキーによって、うつの原因と考えられるキヌレニンを分解する酵素が増えるため、結果、キヌレニンの濃度が上昇しない

つまり、キヌレニンに関連する物質が脳の中で暴れ出さないために、うつ症状が抑えられる。

ということは、この根っこにあるPGC-1α1を遺伝子操作によって増やしまくったマウスを人工的につくったら、うつになりにくいストレスに強い鋼のメンタルを持つマウスが誕生するのではないか?

そして、実際に誕生したPGC-1α1を人為的に強化されたマウスはストレスに強くなって、うつ症状が出にくいことがわかったのです。

これが、もうひとつの研究の文字通りハイライトです。

という壮大な研究がこの論文の中身。

↓【カロリンスカ研究所】なぜ運動がうつ病に効くのか?その理由(機序)↓

Skeletal Muscle PGC-1α1 Modulates Kynurenine Metabolism and Mediates Resilience to Stress-Induced Depression
『骨格筋のPGC-1α1はキヌレニンの代謝を変え、ストレス性うつ病のレジリエンス、回復力を取り持つ』

↓元論文↓

Just a moment...
※コメント※
生物業界(いや、科学界)のトップオブトップである学術誌、あのセル誌(cell)に掲載された「超」面白い研究論文。この論文の説明は上記の池谷先生の言葉を多分に借りました(できない脳ほど自信過剰p192~193を参照)。まさかここでPGC-1αという共通項を通してスロージョギングと繋がるのかという謎の感動を覚えた論文です。
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【まとめ】ランニングでうつ症状が改善する科学的理由

長くなったのでもう一度おさらいすると、うつ病の原因は実はキヌレニンという物質が関係している。

このキヌレニンの血中の量、濃度が高ければ高いほど、うつ症状は重くなる。が、運動をするとこのキヌレニンの量、キヌレニンの濃度の上昇が見られない。

なぜなら、運動することによって、筋肉にあるPGC-1αという長ったらしい横文字の物質の働きが高まることで、うつの原因となるキヌレニン自体を分解する酵素が作られまくるから。

この分解酵素が増えたおかげでキヌレニンは良い感じに分解され、うつの原因とされるキヌレニンの濃度が上昇しないために、うつ症状を抑えられる。

これが博士たちの発見です。

最近、血液検査でうつ病かどうかわかるという話ももしかするとこの血中のキヌレニンと関係しているかもしれません。

ということから、運動するとPGC-1αのおかげで、うつ症状の原因となるキヌレニンを分解できるため、うつ症状を抑えられる。

よって、運動がおすすめされる。

そして、それこそ、スロージョギングなどの低強度の運動でもこのPGC-1αの活性は高まる。そんな事実を発見したのが50歳でフルマラソン2時間38分48秒という驚異的なタイムを叩き出した田中暁教教授だったりします。

【徹底解説】ランニングする前に読む本 マラソンの科学的トレーニングとは?
みなさんどうも、こんにちは! 僕は元帰宅部の本気【The VO2 MAX RUN】というYOUTUBEチャンネルでランニング・マラソン情報を発信をしている市民ランナーです。 計算通りに行え...
【初心者こそ上級者用シューズがおすすめ!】スロージョギングで人生が変わる
みなさんどうも、こんにちは! 僕は元帰宅部の本気【The VO2 MAX RUN】というYOUTUBEチャンネルでランニング・マラソン情報を発信をしている市民ランナーです。 スロージョギン...

↓田中暁教教授が書いた書籍(PGC-1αについての記載もあり)↓

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なぜスロージョギングなどの運動がうつ症状(メンタルヘルス)にとって効果的なのか?

ということで、なぜスロージョギングなどの運動がメンタルヘルスにとって効果的なのか?

前提として、うつ病の原因こそが脳内の炎症やセロトニンなどの脳内物質の量が少なくなることから引き起こされる。

その原因のひとつと考えられるのがキヌレニンという物質。

つまり、このキヌレニンのせいで、脳内に炎症が起きたり、セロトニンの量が減る。

が、スロージョギングなどの運動はそのうつ状態を引き起こす根っこにあるとされるキヌレニンと呼ばれる大元を直接ぶったたける。よって、うつの予防やうつ病になっても、運動をすることで気持ちの落ち込みなどの症状を改善できるのです。

これが超がつく面白いなぜうつ病には運動が良いのかの説明です。

このようなとても興味深いメカニズムの上でメンタルヘルスと運動の重要性が実は語られていたりします。

本当はもっと複雑で、心臓の筋肉からつくられる心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)と呼ばれる物質などもストレス反応を抑えるとも言われており、だからこそ、運動によって心拍数を上げる、心臓の筋肉を使いまくるとメンタルヘルスに効果的であるなど、キヌレニン以外でも様々な興味深い話も存在しているという事実は付け加えておきます。

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【科学的な理由】うつは甘えではない!

知識は実用性がともなってなんぼ。「俺の方が正しい」とマウントをとるのではなく、人を気遣ったり、助けたりするために使うことこそ知識の本質。

ということで最後にもっと実用的な知識を共有してこの話を終えたいと思います。

うつは甘えだ!

と豪語する方は今からの話を最後までよく聞いてください。

こちらの運動を取り扱った書籍ではうつ病についてこう指摘されています。

うつ病にともなう問題のひとつは、「椅子にしばりつけられて」いるときには、走るどころか、そこから投げ出してとにかく動こうとする意欲を見つけるのがきわめて難しいMOVEこの自然な動きが脳と体に効く、p62~63から引用

そう、そもそも論でうつ病になると椅子やベッドにしばりつけられているような状況におかれ、何かしたくてもできない。よって、医者や周りの人間がいくら運動をおすすめしたとしても出来ないのがうつ病なのです。

そして、本人が一番しんどい。

まずはそのことを理解したうえでうつ病に対する戦略を立てていきます。

まずは薬を飲んでください

薬と聞いて、ネガティブなイメージ。

たとえば患者を薬漬けにするや金儲けのための手段などいろいろと思われる方もいるとは思いますが、まずは薬でしんどさを取り除くのが最優先です。

なぜなら、うつ病とは、脳の感情回路が物理的に変化した結果だと考えられるから。

2005年の「ゲノム生物学 Genome Biology」に掲載された論文の言葉を借りれば、一種の冬眠状態

「おとなしくして危険に近づかないようにするために」そういう状態になる

つまり。うつ病は希望がまったくない環境で資源を保存しようとする生存本能であると述べられています。

そして、冒頭でも言いましたが、これは誰にでも起こりうる。なぜならうつ病は脳の回路が物理的に変化した結果なのだから。

つまり、脳内で同じ状況を再現すれば、「俺はうつ病にならない!うつは甘えだ」と豪語する人も、もれなくうつ病になる可能性が高い。

科学で言うところの再現性があるのです。

これは生物が生き残るための生存戦略のひとつとして機能している可能性が高いという説明からもある程度納得できます。という意味合いで誰もがうつ病になる可能性があるという事実は押さえておきましょう

うつ病は甘えや気持ちの問題ではなく脳内の物理的な変化によって引き起こされる一種の冬眠状態。それがうつ病。

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【具体的な回復プロセス】スロージョギングによってうつ病を克服する方法

そして、ここにうつ病から復活するヒントが隠されています。

そう、うつ病は脳の感情回路が物理的に変化した結果。となれば、それを物理的に元の状態に戻せばうつ病から回復できる

では、どうすれば脳の回路を物理的に元の状態にもどすことができるのか?そのきっかけを作れるのか?

そうです。薬なのです。

もちろん先程も説明した通り、運動によってPGC-1αをガンガン増やせば物理的な変化を引き起こすことも可能かもしれませんが、そもそも椅子やベッドにしばりつけられているような状況ではかなりの困難が伴う。

また運動できなかった。自分はなんてダメなんだ

という失敗したときの挫折感というリスクの方がでかい。よって、うつ病で何もやる気が起きない時こそ、脳の回路を物理的に元の状態に戻すために、脳に物理的にアプローチするために薬を飲んでください。

そして何もやる気が起きない中、薬を飲んだ努力自体をほめてください。

ここがミソです。

そんなこと誰でも出来る。薬を飲めたこと自体褒める必要なんてない

というのは知識を使えていない証拠。

知識はマウントをとるためではなく、相手を気遣うための道具です。うつ病はそれくらい椅子やベッドにしばりつけられるような感覚。おそらくうつ病になった人にしかわからないもの。

だからこそ知識をフルに動員して相手の立場に立つのです。これが本来の知識の使い方です。
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また、もし本人がどうしても薬に抵抗があったり、副作用で薬を飲みたくない場合はオメガ3脂肪酸のサプリメントを摂取してください。このオメガ3脂肪酸は抗うつ効果が実証されている物質で脳に効くために、うつ病以外にも認知症予防にも使われたりもしています。

そして、同じくサプリメントを飲んだこと自体をほめてください。

★オメガ3脂肪酸の根拠★『オメガ3系脂肪酸からうつ病・不安にアプローチする』

↓元論文(日本語)↓

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsbpjjpp/31/1/31_25/_pdf
※コメント※
論文の主旨とは外れますが、薬効以外にも目を向ける!なぜなら、サプリや薬の効果は個人差が大きいから。ということで実際の効能のほか、思い込み効果(プラセボ)や自己肯定感を上げる道具として使用します。つまり、「飲んだ自分を褒める」という道具としてサプリや薬を使う!うつ病で苦しんでいる方にはこの考え方を特におすすめします。
>>オメガ3脂肪酸

というようにまずは薬などを使って脳の神経回路に物理的にアプローチしていきます。すると、少しずつ体を動かしていけるようになります。

実際の研究でも、MVPAと呼ばれる自発的な随意運動の増加は、抗うつ剤が効きはじめているかどうかを示すよい指標になることがわかっています。

つまり、抗うつ剤によって確かに運動量が増えるのです。そしてその運動量から薬が効いているかどうか評価できることを示唆したのがこの研究だったりします。

ちなみにこの研究のハイライトでも指摘されていますが、この自発的な運動量が増えるのは4週間後。

よって、それまでは薬を飲み続けてください。

★抗うつ剤で自発的な運動量が増えることを示唆した研究★

Are early increases in physical activity a behavioral marker for successful antidepressant treatment?

↓元論文↓

Redirecting
※コメント※
薬の効き方を中等度から精力的な身体活動(MVPA)を指標として評価し、予後予測に役立てられるのでは?ということに言及した研究。つまり、薬の効き目は体の活動量から分かるんじゃね!?しかもどれくらい回復するのかも予測できるかも!?という面白くもマニアックなもの。
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すると少しずつ、運動ができるようになっていきます。焦る必要はありません。

そして、軸足を少しずつ運動へと移していく。先程出したキヌレニンに関するマニアックな話を思い出してください。薬を使って脳の神経回路に物理的にアプローチするのを、運動によって作られるPGC-1α関連の物質に置き換えていくイメージです。用法容量は前半でお伝えした通り、週に最低1回30分ほどの軽い運動でOK!

ちなみに一度で30分でなくとももちろん良いです。1週間で合計30分をまずは目指してください。

そして、運動量を増やしていく。

その運動量自体を増やすために薬を服用するという感じで、メインを運動に切り替えていくと、おそらく薬の量も減っていくはずです。

すると脳の回路が少しずつ物理的に変化していき、うつ病が寛解する、うつ病から回復できる。

うつ病は気持ちで治す、なんとなく治るのではなく、戦略を立てつつ、ロジックで、脳内の物理的な変化に着目して治していくのです。

これがエビデンスベースドメディシン(EBM)、根拠に基づく医療の真骨頂。

最後に補足しますが、医師はこのようにして研究などからエビデンスベースで治療のプランをちゃんと組み立てています。実際にわかりやすく説明する能力とこれらの能力はまた別であるので、時々誤解が生まれますが。

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【余談】おすすめ精神医学の書籍

余談になりますが、僕が去年、数々の本を読んだ中で最も面白かった本ベスト3の一冊が実は精神医療・精神医学に関する本だったりします。もちろん専門書ではなく一般書です。本を読むことに抵抗がない方はおすすめです。ちなみにその本自体は僕の友人である整形外科のドクターからおすすめされたので、精神医学に興味のない方でもおすすめだったりします。気になる方は図書館かどこかで借りてみてください。

※コメント※
「なぜに整形のドクターが!?」と思いましたが、読んでみて納得!分野を問わず全ての医者におすすめ!おそらく一般の方が知らないであろうかなりメジャーな精神疾患である統合失調症について書かれたベストセラー。黒人初のアメリカ大統領で読書家のバラク・オバマ氏も年間ベストブックに選んでいるそんな一冊。

以上、運動とメンタルヘルスについてかなりディープなところまで解説しました。

テストで点数を取る知識よりよっぽど面白くはないでしょうか?この知識・知見が少しでも誰かのためになれば幸いです。

今回参考にした論文などの一次資料は出来るだけ載せておいたので、気になるトピックがあれば各々深ぼってみてください。

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