42.195kmの科学――マラソン「つま先着地」VS「かかと着地」

書籍紹介

みなさんどうも、こんにちは!

僕は元帰宅部の本気【The VO2 MAX RUN】というYOUTUBEチャンネルでランニング・マラソン情報を発信をしている市民ランナーです。

 

95

この数字、なんの数字かわかるでしょうか?

この数字の答えは人数です。

では、何の人数か?

それこそ、2022年3月現時点、世界陸連が認めている男子フルマラソンの世界記録上位100位以内に占める、ケニアやエチオピアなどのアフリカ人ランナーの数です。

そうなんです。驚くべきことになんとフルマラソン世界記録上位100人中95人がアフリカ勢。しかもほとんどがケニアとエチオピア

ちなみにアフリカ勢を除くその他(ほか)の国のランナー、この5人の中には、日本人で唯一2時間5分切りを達成し、今年の東京マラソンでも存在感を放った鈴木健吾選手がアジア人として唯一含まれています。

そんなマラソン界を牽引するケニアやエチオピアが率いるマラソン最強軍団。

才能とは言わせない。「最強ランナーの条件とはいったい何なのか?」

今回はこの疑問をこの本、42.195kmの科学――マラソン「つま先着地」VS「かかと着地」から紐解いていきたいと思います。

このブログを最後まで見れば、驚くべき最強ランナーの秘密がわかる。

42.195kmの科学――マラソン「つま先着地」VS「かかと着地」

みなさんはこの番組をご存じでしょうか?

この番組の名は「ミラクルボディー 持久力の限界に挑む」。NHKのドキュメンタリー番組です。この本、42.195kmの科学はこのドキュメンタリー番組を作るために1年にも及ぶ取材の中で解き明かされたマラソンの真実を書籍化したものです。

実際にNHKの取材班がアフリカの最高峰ランナーたちやそれぞれの分野の専門家たちから直接話を聞いて書かれたこの本。この本の中で語られるマラソンの真実。

男子マラソン世界ランキングの内訳

マラソン世界記録ランキング100位以内でアフリカ勢が95人

さすがにこの人数、全員が全員、才能という言葉に落とし込むには人口統計上、無理があります。

たしかに身体的特徴という生まれ持った才能は存在します。たとえば、皇帝と呼ばれたハイレ・ゲブレシラシエ。彼の心臓は普通の人と比べて、走行中に1.6倍、つまり60%も大きくなるという驚異的な特徴。

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エリウド・キプチョゲ選手の弾力性に富むアキレス腱などです。

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しかし、マラソンという競技は、短距離種目と比べ、身体的な特徴に恵まれた選手にそこまで統計学的優位性がないという前提に立つと、これらの才能と呼ばれる身体的特徴は人種を問わずアフリカ人以外にも均等に分布していると考えられます

そうなのです。アフリカという環境にこそ、その秘密があるのです。

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最強ランナーの条件とはいったい何なのか?

「最強ランナーの条件とはいったい何なのか?」

早速、結論です。

それが貧困高地思惑です。

この3つが絡み合い、最強のランナーが生まれます。

より具体的に言うと、

幼い頃から靴が買えない貧困の中で、標高の高い場所で膨大な運動量を裸足で駆けまわることで、特異的なランニングフォームを修得できた。そこに海外の企業が目をとめ、トレーニング環境を整え、世界に送り出すことで、そこで発生するマージン、中間手数料を取るというビジネスモデル、いわば思惑が生まれた。

というわけです。

陸上界で有名なメイヨークリニックのマイケル・ジョイナー博士はアフリカ人ランナーの強さについてこう指摘しています。

最大酸素摂取量や乳酸性作業閾値が、並外れて優れているわけではないが、特筆すべきランニング・エコノミーを獲得している

このランニングエコノミーという視点。

【徹底解説】ランニングする前に読む本 マラソンの科学的トレーニングとは?

皇帝の異名で知られているハイレ・ゲブレシラシエはこう言っています。

日本人のように、舗装道路やトラックなど硬い路面で練習をし過ぎるのは問題があると思います。私は、山道を走ることを強く勧めます。アスファルトでの練習は、多くても週2回ほどです。アスファルトは、筋肉への負担が大きすぎます

また同様に、元世界記録保持者でもあるパトリック・マカウも木々が鬱蒼と茂った山の中、起伏が激しく、一歩間違えばケガを招きかねないトレイルで基本的なトレーニングをしていました。

このような不整地を走ることが彼らの効率的なランニングフォーム、ジョイナーの言葉を借りれば「特筆すべきラニングエコノミー」の秘密に繋がっている可能性はありそうです。

しかし、だからと言って、すぐにあのような美しいランニングフォームを獲得出来るのではありません。ここに秘密があります。

ケニアやエチオピアランナーのバネのあるのびやかで美しいランニングフォーム。その秘密が実は子どもの頃に隠されています

一体どういうことなのか?
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「特筆すべき(効率の良い)ランニングエコノミー」はどうすれば獲得できるのか?

それこそが、貧困なのです。

たとえば、先ほどの世界記録保持者のパトリック・マカウの場合、両親がひと月に得る収入は10ドル程度。日本円で言えば、900円~1150円程度。月に1000円程度の月収。このお金をやりくりしてマカウを含む兄弟姉妹6人を両親は育てる必要がありました。

そうなんです。食べ物にも困るレベルの貧困状態で子どもの頃を過ごしたマカウ。

当然、靴は購入できず、裸足で水くみや学校にいっていました。

だからこそ、東アフリカのランニング研究の第一人者である運動生理学者、ヤニス・ピツィラディ博士は「この裸足の習慣こそが、ケニアのランナーたちが行っている”つま先着地”の秘密を解く鍵だと」鋭い指摘をしています。

さらにピツィラディ博士の研究では、裸足で走ると、土踏まずを支える筋肉が強化され、足の指の力についても、裸足の人の方がより大きな力を出せることも分かってきました。

この結果を受けて、彼はこう言っています。

これらの筋肉や腱が鍛えられることで、ケニアのランナーたちは、”つま先着地”でも、足を痛めることなく長時間に及ぶ過酷なランニングに耐えられるようにるのだと思います。

また、2010年にネイチャーに発表されたピツィラディ博士が関わった論文では、

ランニングシューズを履くとかかと着地になりやすく裸足だとフォアフット着地になりやすい

と発表しています。

伝説のベストセラーから解説する「フォアフット走法の原点」

そうなのです。裸足に慣れ親しんだ彼らは自然とフォアフット着地を体得できる可能性が高いのです。

そして、そんな裸足という状況の中、さらに驚くべき事実があります。それがアフリカ・ケニアの子どもだちの運動量なのです。

なんと彼らの運動量。

一日あたり、中等度から強度の運動をする時間は平均2時間36分。対照的にEU圏の子どもの運動時間は1日平均15分。つまり、ケニアの子どもたちは、実に10倍もの運動をしていることになるのです。

なぜ空腹状態の中でそこまでの運動量を確保出来るのか?

という疑問は、こちらの動画で詳しく解説しています。

【解説】糖質制限ダイエットが秘密!?伝説の飛脚の持久力の科学

この事実からも、長い間、裸足で駆けまわっていたアフリカのこどもたちは自然とフォアフット着地を身に付け、それがランニングフォームとして最適化された可能性があるのです。

アフリカ人ランナーのフォアフット走法の秘密

実際にマカウに裸足で走ってもらったところ、かかとには、ほとんど体重が乗っていないことが判明しました。

さらに、計測を進めると、なんと

足に最も体重が乗ったときに出せる最大筋力が、日本人選手は81%であるのに対し、マカウはたった48%だった

のです。

この数値が意味していること。それは、マカウは日本人選手に比べ、30%も少ない筋力で走っているという衝撃の事実だったのです。

いわば驚異的なレベルで、一歩一歩の足への負担が少ないことが証明されたのです。これがマラソンの42.195km、計2万歩以上になると、筋肉の疲労も圧倒的に少なくなる。これがこどもの頃からフォアフット着地を使いこなしているアフリカ人ランナーのその驚異的な速さの秘密のひとつです。

だからこそ、OBLA(通称オブラ)と呼ばれる乳酸が急激に増加し足が止まるポイント。厳密には4ミリモルという数値。

なんとマカウは1km=2分55秒ペース、時速20.4kmで走ったとしても、乳酸が3.2ミリモルまでしか上がらなかったのです。

さらに驚愕すべきなのが、ペースを速めて1km=2分52秒のペースでも、乳酸が3.6ミリモルまでしか上がらないという結果も出ました。

通常この臨界点となる4ミリモルというライン。このラインを超えると足が止まります。

実際に同じ条件で同じペースで測定した日本人の一流選手6人は、平均4.8ミリモルまで乳酸の濃度が上がってしまい、足が止まりました。しかし、マカウは1km=2分52秒のペースでも、このラインに到達しない。だからこそ、とてつもないペースを刻み続けられるのです。そのハイペースを刻める理由の一つがフォアフット着地が可能とした、筋力を使わな省エネ走法から実現される48%という筋出力の低さ

これがランニングエコノミー・走りの効率性という言葉の真の意味。アフリカ人ランナーの強さの秘密です。

アフリカ人ランナーのVO2MAXと赤血球の秘密

平均74ml

この数値。これは最大酸素摂取量、いわゆるVO2MAXと呼ばれる数値です。

果たして誰の値なのか?

そう、それこそ、ケニアのこどもたちの数値です。

なんとケニアの子どもたちは平均で体重1kgあたり毎分74mlもの酸素を摂取できるのです。この74mlという数値だけではピンとこないと思いますが、これはなんと鍛え抜かれた大人のエリートランナーの半ちゅうに入る数字なのです。

もちろん彼らはランニングのトレーニングなどまったく積んでいないのにもかかわらず、です。

なぜそこまで酸素を摂取できる身体になったのか?

その秘密が高度、つまり標高です。高地トレーニングの権威でもあるテキサス大学のベンジャミン・レビン博士は

「アフリカ人ランナーが高地に住んでいることが鍵」

だと指摘しています。

標高が高い場所に住むことで赤血球の量やヘモグロビン濃度が向上します。

しかし、ここにおもしろい事実もあります。

大阪市立大学の岡崎和伸准教授によると、

ヘモグロビン濃度が高すぎると血液の粘り気や、血管を流れる時の抵抗が増すため、かえって酸素を運ぶ力が落ちてしまう

といいます。

つまり、ヘモグロビン濃度が高すぎても良くないということです。

マラソンにおいて理想的な血液とは、ヘモグロビン濃度が一定の高さを維持しつつ、かつ、流動性がいい=流れやすい血液ということになります。

それではなぜ、彼らの血液はヘモグロビン濃度が高くても、サラサラを維持できるのでしょうか?

岡崎准教授によると、その謎を解く鍵は、彼らの赤血球の「大きさ」と「数」にある言います。なんと、アフリカ人ランナーの赤血球の大きさが、日本のランナー16人の平均値と比べると一割以上小さいことが分かったのです。

そう、すなわち赤血球が小型化していたのです。

ヘモグロビン濃度が比較的高い状態でも、サラサラと流れる循環システム、その秘密が赤血球の小型化。それが高地で長い間暮らし続けた恩恵なのかもしれません。

だからこそ、冒頭でお話した95という数字。

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アフリカという開発途上国、つまり貧しい暮らしと、標高が高い土地で長年暮らした結果、ケニアやエチオピアなどのアフリカ人ランナーはマラソンという競技において世界を席巻する最強軍団となったのです。

今回は最強ランナーの条件・秘密に迫りました。次回はマラソンでの最大の議論。この本の副題でもある、マラソン「つま先着地」VS「かかと着地」

そう、つま先着地が良いのか?かかと着地が良いのか?この問題を改めて考察していきたいと思います。

今回はあくまで自分の言葉で簡単にまとめただけなので、少しでも気になった方は本書をお取り下さい。


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