みなさんどうも、こんにちは!
僕は元帰宅部の本気【The VO2 MAX RUN】というYOUTUBEチャンネルでランニング・マラソン情報を発信をしている市民ランナーです。
「限界」は幻想だ。
この言葉、みなさんはどう思うでしょうか?
元早稲田大学陸上競技部監督、あの大迫傑選手を育て、現在は住友電気工業陸上競技部で監督をつとめている名将、渡辺康幸(わたなべやすゆき)さんはこう言っています。
私は選手自身が、自らの限界を理解することに意味があると考えています。それはアスリートとしてのセンスと言ってもいいかもしれません
どうすれば限界を理解し、突破できるのか。
もしそれが出来れば、自己ベストの更新や考えられないほどの距離を走破出来るかもしれません。
だからこそ、今回紹介するのはニューヨーク・タイムズのベストセラーとなった人間の持つ持久力の限界に焦点を当てた本。
ENDURE 限界は何が決めるのか?持久系アスリートのための耐久力の科学です。
これを見れば、現状を打破出来、より一層マラソンを楽しく走れるかもしれません。
目次
ENDURE 限界は何が決めるのか?
このベストセラーの著者はアレックス・ハッチンソン。学生時にカナダのナショナルチームに所属しており、5000mの持ちタイムは13分52秒。さらに世界でも最も難関と言われるケンブリッジ大学で物理学の博士号を取得し、現在はスポーツジャーナリストとして活躍しています。
そんな持久系スポーツの最前線を追っているアレックス・ハッチソンは私たちにこのように教えてくれます。
ライトスタッフ(正しい資質)は、生まれつき備わっていなくても、懸命にがんばり、精神的にも努力することで身に付けられるかもしれない。
この言葉にある通り、懸命にがんばるというのは、実際のマラソン練習に励むこと。
ではそのあとに続く、精神的な努力とはいったい何なのでしょうか?
この言葉こそがアレックス・ハッチソンの真骨頂であり、この本の売れた理由。
それは、限界は脳が決める、ということです。
この装置の名前はtDCS。日本語では「経頭蓋直流電気刺激」という装置です。
この装置こそ、スポーツ分野において、いわゆる「脳ドーピング」と呼ばれる新たな分野。
この装置は脳に微弱な電流を20分程度流すことで、ニューロンの感受性を変化させ、わずかに発火させやすくしたり、その逆に発火しにくくしたりする装置です。
電流を流すってめっちゃ危なそう!!
しかし、これはみなさんが想像する電気ショック療法、いわゆる”電気痙攣療法”ではなく、実際に使われる電流は(四角の)アルカリ電池で十分であり、電気ショック療法の500分の1~1000分の1の大きさです。
よって、ケンブリッジ大学の博士号を持ち、様々な文献を読み込み、専門家に話を聞いたアレックス・ハッチソンは
tDCSのリスクは極めて小さいと考えられている
と述べています。
またきっとこうも思うはずです。
脳に電流を流すってめっちゃ怪しくて胡散臭い!!
しかし、なんとこのtDCSで特筆すべきなのは2013~2016年の間には、2000以上の研究結果が発表されており、ちゃんと実施されれば「その効果は間違いない」というのが現在の科学の結論となっているところです。
だからこそ、ブラジルのリオ・グランデ・ド・ノルテ連邦大学のアレシャンドリ・オカノ博士はtDCSは「薬物使用に匹敵する効果」につながるとまで述べ、アレックスハッチソン自身も「脳への刺激が広まる前に、アンチ・ドーピング機構が禁止することを願っている」と言うまでに至っています。
もちろん購入はおすすめしませんが、もしtDCSが気になる方はある程度信頼性のある情報をプラスして以下に載せておきます。
興味がない人は読み飛ばしてください!
【tDCS】経頭蓋直流電気刺激デバイス
<tDCSは合法?非合法?>
個人的な使用は合法。しかし、非専門家がこれを使用し、お金を取るなどの経済活動はアウト。18歳未満は脳の発達途上であり、絶対に使用禁止。
<tDCSの実際的な効果は?>
2000件のうちほとんどが精神的な疾患(うつ病、統合失調症など)やパーキンソン病などの脳変性疾患に関する運動障害に有効性を示したものであり、スポーツについての報告は数が少ない。
また、運動中に使用することが必要な場合があり、トレッドミルやエアロバイク等が必要。
特に本当に効いているのかの効果測定をするなら絶対に必要。
<専門的な知識は?>
適切に電気をあてるには脳の解剖学の知識が必要。
たとえば、一次運動野、島(運動の限界を規定するセントラルガバナーがあるとされる場所)、前頭前野(体の疲労が近づくと酸素不足になると言われている)や前帯状皮質(強度の認知と密接に関係している)など基礎的な脳の構造とその特性を理解していることが必須。
<tDCSはどんな人におすすめなのか?>
どれくらいがんばっても結果が出ないアスリートにとってひとつの選択肢として十分に機能すると思います(現在は合法)。またtDCSはリスクが少ない(非侵襲的な)ため、【プラセボ効果】を用いた活用方法は有効かもしれません。ここに全振りするなら、専門的知識も不要。
【プラセボ効果】についてはこの動画を一度ご覧ください。
特に脳のドーパミン量に影響を与えている”COMT遺伝子”の3種類のうちmet/met型の遺伝を持っている人なら、tDCSの効果の恩恵は十分にあると考えられます。つまり、もしあなたがmet/met型の遺伝子型なら、脳ドーピングは驚異的なパフォーマンスを引き出せるかもしれません(※あくまで仮説です)。
このように現在のスポーツ科学の分野、持久力の分野は従来のトレーニングだけに焦点を当てたものではなく、脳、つまり認知機能に焦点を当てたものへと広がっています。
限界は幻想だ
だからこそ、最初の言葉を思い出してください。「限界」は幻想だ。
あなたの疲れや限界はつまるところただ脳が感じさせる幻想なのかもしれない。
だったら脳を鍛えることで幻想を破壊して、限界を越える。結果、持久力の向上につながる、という考え方です。
いきなりそんなことを言われても、あまりピンとこないかもしれないので、脳と持久力の関係について、とても興味深い女性ウルトラランナーの実話をご紹介します。
それがバン・デレン。彼女は1000マイル(約1600キロ)トレイルを22日5時間3分というタイムで新記録を樹立したとてもタフな女性です。
そんな持久力の化け物である彼女の秘密。それは脳の摘出手術。
その手術の結果どうなったのか?
もちろん彼女のてんかん発作は治まりました。しかし、同時に後遺症として「記憶力の低下、時間経過の把握困難、方向感覚の障害」が残ってしまいました。
だからこそ、彼女は2011年のランナーズワールド誌には”ディスオリエンテッド・エクスプレス(迷走急行)”と称され、
レースでは何百キロも走るが、自分がどのくらい走っていたのか把握していないことも多い
と紹介されていたりまします。
彼女はこの手術の結果、様々な後遺症をおいましたが、それ以上に得た能力もあるのです。それが驚異的な忍耐力と持久力(いわゆる耐久力)です。
実際にバン・デレンを担当した神経心理学者のドン・ガーバー医師はこのように言っています。
バン・デレンは私たちと同じく苦痛自体は全く同じように感じます。しかし、彼女はそれに耐えることが出来る。
彼女の存在はそのように私たちに示唆してくています。
忍耐力と持久力。彼女のように人間の脳にこそ、これらの能力を伸ばす秘密が隠されているのではないかと、様々な研究が行われました。
持久系スポーツでの耐久力の科学【マラソンの科学】
たとえば、サブミナル・メッセージ(潜在意識に働きかけるメッセージ)でさえ耐久力に影響を与えることが判明しました。
どういうことなのか?
なんと無意識に働きかけるサブミナル的なメッセージであっても、笑顔を見ると安心し、その安心感がペダルをこぐような課題をどれだけきつく感じるかという強度の認知に入り込むことがわかったのです。
他にも認知によってパフォーマンスが変わる実験としては、
2012年のイギリスの研究で、実際より低く温度を表示するように(31.6度を26度に)温度計を操作したところ、加熱室でサイクリストのペダルをこぐスピードが4%速まる
ことが示されました。
また、認知機能はここまで多彩な影響を及ぼすこともわかっています。
イェール大学の研究者が行った実験では、
こうした結果から、結局は頭が体を支配していると考えは、最高のパフォーマンスを発揮する上で無視出来ないものだと判明したのです。
だからこそ、ポジティブなセルフトーク、たとえば「気持ち良い!」「やりとげろ」などのフレーズを学習したグループは、何もしていない対照群に比べ、2回目の持久力テストでは、18%長く自転車をこぎ続け、テスト中の主観的運動強度の上昇もゆるやかだったと報告されています。
また、カナダのブロック大学の環境生理学者でもあるスティーブン・チャン博士の実験のでは、同じようにポジティブな言葉が与える影響についてこのように報告しています。
「やけに暑いな」「沸騰しそうだ」といったネガティブな言葉を、「このままがんばれ、よくやっているぞ」といったモチベーションを上げる言葉に置き換えていく訓練をしたサイクリストでは、高温の中、持久力テストで疲れ切るまでの長さが8分から11分に延び、深部体温も平均0.3度高いところまでがんばることができた
と報告しています。
以上から、サブミナル効果と同様にたとえ一言も言葉を発っさなくても頭のなかにポジティブな言葉を思い浮かべるだけでも、パフォーマンスに影響を与えることが実験でわかっています。
みんさんが良く聞くこの言葉。最大酸素摂取量(いわゆるVO2MAX)
1996年、アメリカスポーツ医学年次総会の講演で南アフリカの医学博士ティム・ノークスが持久力の絶対的評価軸である最大酸素摂取量には根本的な欠陥があるというなんとも刺激的なトピックを取り上げました。
たとえば、同じVO2MAXの選手でもレーススピードが全く異なっているという事実。
トラック選手とウルトラランナー、ふたりとも同じVO2MAXだったとしても、実際に発揮出来る力は同じではありません。
ノークスの主張。それは、長時間の運動で直面する肉体的な限界。それを押し付けているのは、実際には脳だけだという大胆なものでした。
ノークスは耐久力には脳が関係していると感じ、脳が自動的に限界に至らないように調節しているという”セントラルガバナー”という概念を作り出しました。
持久系アスリートの限界を超える方法
ところで、みなさんはラストスパートの秘密をご存じでしょうか?
それは速いランナーほど、ラストスパートをかけられる率が低くなるという事実です。
ノークスの指摘。
考えられる解釈のひとつは、長時間のトレーニングを通じ、より熱心なランナーたちが自分のセントラル・ガバナーの設定を徐々に再調節して、余力を残さないでいられるようにしたということだ。
そうなのです。冒頭に話した脳のドーピングやプラセボを使ったポジティブなセルフトークなどは究極的には、このセントラルガバナーのような脳内の限界ダイアルを調節する作業のこと。
そして、そのセントラルガバナーの設定ダイアルを調節するのに必要なのが、主観的運動強度(RPE Rating of perceived exertion)いわゆるしんどさなのです。
ペース配分とは、レース中のある時点で感じる運動強度と、その段階で感じる予想していた運動強度を比較するプロセス。
だからこそ、マラソンの途中で中だるみやペースダウンが起こる原因としては、体が限界に達したからではなく、強度の予想と現実が一致しなかったことが原因である。
つまり体が想定していたしんどさと実際に感じるしんどさに違いが出てしまう。すると主観的運動強度が上昇し、ペースダウンさせたり、足を止めたりする原因となる。
そのダイアルを動かし、主観的運動強度をコントロールする。その方法こそ、アレックス・ハッチソンは脳トレーニングであると結論つけています。
まとめ
現在のスポーツ科学はトレーニング理論だけでなくいかに運動強度を認知するかという脳に焦点を当てた分野も活発に議論されています。
もし脳の限界を突破できるとすると、これまで以上のパフォーマンスが発揮出来る。
そのために、脳ドーピングやポジティブなセルフトーク、実際の脳トレのゲームのようなトレーニングを積むことで、レース中の精神的なしんどさ、自覚的運動強度をコントロールでき、脳が作り出した限界を突破できる。
それが本書にある「限界は幻想だ」という意味なのです。
今回はあくまで自分の言葉で簡単にまとめただけなので、少しでも気になった方は本書をお取り下さい。
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